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俺の思いは絵になれない 『1750』

執筆者の写真: kurekure018
kurekure018
8月14日
読了時間: 6分

大きな音で目が覚めた。

今日もザーザー降りの雨だ。おまけに雷まで落ちている。

時刻は午後四時四十六分。二度寝を決め込もうか悩む。

しかしずっと寝ているわけにもいかないので身体を起こしカーテンを開けた。遅すぎる。

曇天が遠い街にまでのびているのが見えた。これが終われば、夏本番だな。煩わしい。徐ろにカーテンを閉めた。

俺の名は夢先ゆめさき。

少々妄想癖の過ぎた、ただの社不創作者である。



その日。俺は偶然見ていた流行りもののアニメのキャラクターを描いていた。

別に好みでもなんでもない。ただ描きやすそうだったからだ。実際ソイツは描きやすかった。二十分でバストアップ一枚。可愛らしく描けた方だな、と暫く眺める。

生まれてこの方、版権作品のキャラクターを描いたことなど数えるほどしかなかった為不安だったが思ったよりも可愛らしい少年が出来上がってしまった。少し自信を取り戻す。

システムを開き、PNG画像として保存する。

開かれたファイルはオリジナルキャラクターのイラストをため込んでいるものだった。赤髪の少年のイラストばかりが入っている。

俺はイラストをクリックした。絶望している寂しそうな少年のイラストが映し出される。古いものから新しいものまで、全部入っていた。

呆然と見ていたがファンが高速回転しだした音で我に返る。


「ここに版権入れるのもなぁ……。」


まあ一時保管と言うことで適当なファイル名をつけ、版権の少年を大量のOCの中に孤立させた。

描き終えた満足感と、心の中の承認欲求が騒ぎ出す。

俺はSNSを開いた。創作を嗜む者達のイラストや設定資料が滝のように流れてくる。


「くっ……今は見れねえ……。」


みんな各々の世界を表現しているのに、俺は版権を描いてしまうだなんて……。

オリキャラへの冒涜なのではないか?いやしかしその思考は版権作品への侮辱に値するのでは……と思考する。

その時、ドカンと隣の畑に雷が落ちた。

きっと下らない事を考えていた俺への叱責だ。そう思い、俺は版権キャラのイラストを投稿した。ハッシュタグもつけて。


「あ〜やっちゃったよ……。俺は一生創作で生きていくって決めたのに……。」


へなへなと座り込む。

するといいねがついた。アイコンをタップしプロフを見る。知らない人だ。

やはり版権。恐るべし。


「オリキャラの時なんて十分で一いいねつくかどうかなのに……。」


なんだか惨めな気持ちになりパソコンを落とす。

飾ってある赤毛の少年のイラストを見つめた。今見ると構図も色塗りも未熟だ。これを堂々と公開していた自分が恥ずかしい。

俺はベッドに寝転がった。まだ晩飯(俺にとっては朝飯だが)の時間ではない。それまで少し眠ろうと思い目を瞑る。

雨はどんどん激しさを増していた。

窓に打ちつけられる雨粒の音が煩くて俺は布団に潜り込んで眠った。



車が水たまりを跳ねる音で目を覚ました。

時計を見ようとしたが部屋はすっかり暗くなってしまい何も見えない。外の雨は少し収まっていたが、それでも降り続いていた。

俺は仕方なくスマホをつける。眩しい光に一瞬たじろいだが、すぐに目を見開く。


「は……!?」


俺の目に入ったのはおびただしい量のいいね通知だった。


「えっ!?なにこれ……!?」


オリキャライラストがついにバズったか!?

血眼になりながらSNSを開く。アプリを開いても尚いいねの通知は止まない。

俺は通知を確認した。そこには『九十九人以上がいいねしました』という表示とそこそこのリツイート、そしてコメントだった。


『○○くんめちゃくちゃ可愛い!』

『フォローしますた』


○○くん。

そんな名前のキャラクターは俺のもとにはいなかった。

元ツイを見る。二十分で描いた版権キャラのイラストが映し出されると同時に『1750いいね 160リツイート』の表示。

フォロワーも一気に三十人ほど増えていた。

愕然とした。雨がまた強く降り出した気がした。

嬉しくない訳ではなかった。イラストでここまで評価してもらえたのなんて初めてだ。記念すべき出来事だ。

俺の絵柄だとここまで伸びるのか。なら、版権を描けばもっと——


あ。


一瞬世界に音がなくなったような感覚がした。

俺は一度スマホをベッドに投げ、電気をつけた。そして頬を思いきり殴った。心の何処かでこれが夢であってほしいと願っていた。


「……なんで喜ばないんだよ。」


ベッドからぼそぼそとした声が聞こえてくる。

その低い声の主をそっと見やる。黒いパーカーに身を包んだ赤毛の少年が、横になってスマホを見ていた。スワイプもせず、ただ1750の数字を見ている。


「……良く描けてんじゃねえか。お前だってそう思ってんだろ?それが評価されたのがこの数字だ。」

「……」

「……嬉しいだろ?」

「……少し。」


少年は舌打ちして俺の腕を掴む。

そして強引にベッドに押し倒した。

馬乗りになった状態でスマホをスワイプする。そしてある画像を見せてきた。


「これ。お前が描いた俺。んーと……十七いいねか。当然っちゃ当然だな。」


そして再び例のイラストを見せつけてくる。


「……約百倍。お前、ずっとみんなに見てほしいって言ってただろ。それが叶ったんじゃん……。喜びなよ。」


少年のチョーカーがきらりと光った。そして遠くの方で雷が鳴る。


「喜んでるよ……でも……。」

「……でも?」

「……」


雨の音と俺の呼吸だけが小さく部屋に反響する。

赤毛の少年は暫く俺を見下ろした後、俺の首にそっと手を添えて顔を近づけてきた。ふっ、と耳元で笑われる。


「俺には分かるぞ……少しでも「俺ら」を捨てようとした自分に嫌気がさしてんだろ……?」


やけに声がねちっこかった。コイツはこんな奴じゃないのにと思うとぐっと首を絞める力が強くなった。


「自分が描いたイラストで惨めになるなんて……馬鹿だな、お前……。俺達だけを描いていれば、こんな思いしなくて済んだのにな……?」

「俺はっ……ただ……!」

「ただ……?何を言い訳するつもりだ……?少しでも俺を捨てようとしたのはお前だろ……。「俺ら」にはお前しかいないって……わかってんのによくも……。」


ぎりぎりと音が鳴る程強く絞められ頭がクラクラしてくる。

少年は肩まで伸びた赤髪を揺らしながら焦ったように笑った。


「なあ、そうなんだろ……!「俺ら」を、俺を見捨てて自分だけいい思いしようとして……!どうせ俺なんて数字以下の存在なんだろ!!」


その言葉を聞いた瞬間、俺は目を見開いた。

そして少年を思いきり突き飛ばし馬乗りになるとその胸ぐらを掴んで叫ぶ。


「お前は……!俺の大事な友達であり家族なんだよ……!」

「お前にそんな事……言わせたくなかった……。ただ俺は……お前を……お前らをみんなに知ってほしくて……。」


少年の裂けた瞳孔がカッと開かれたかと思うと、目を伏せて小さく笑う。

俺は構わず続けた。


「俺……確かに嬉しかった。沢山いいね貰えて……でもそこにお前らの事を好きな奴はいない……承認を得ても……お前の事を知ってもらえないんじゃ……意味ねえよ……」


少年は黙って聞いていた。頬に俺の涙が零れ落ちるのも厭わず、真っ直ぐと俺を見つめていた。


「……不安だったんだよ、俺も。お前が二度と……「俺ら」を描かないんじゃねえかって……でも……お前がそう言うなら、信じてやるよ。」

「……だから手を離せ、退け。重い。」

「あっ……ごめん。」


俺は慌てて少年から離れる。

雨の音は相変わらず激しさを増していた。


「……次は俺を描いてくれよ。」


耳元で囁かれ振り返る。

そこに彼はもういなかった。


「……任せろ。」


薄暗い部屋にパソコンのLEDが光った。

俺は画像フォルダを整理する。オリキャラファイルに突っ込んでいた版権キャラのイラストは、別の場所に保管することにした。版権の彼がいなければ、大切なものにも気づけなかっただろうから。

星の数ほどあるアイコンから、イラストソフトをクリックする。

今日はいつもより少しだけ、いいイラストが描けそうな気がした。

 
 
 

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